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元特殊班が思う未成年連れ去り事件の現状と回避

更新日:2024年6月6日



子供

1 なぜ、未成年連れ去りの現状を話したくなったか


 先日、警視庁の特殊犯捜査係(特殊班)の、捜査第一課での活躍がニュースで紹介されていました。


 捜査第一課の花形は、殺人事件を担当する強行中隊ですが、捜査第一課に所属する各中隊でも、犯人を捕まえ有罪を立証する強行中隊と、人質や誘拐された被害者を救出する特殊班とでは、その目的や捜査手法が異なっていて、表に出ることを嫌う忍者のような特殊班の活躍は、なかなか公になることはありません。


 特殊班のことは、また、次の機会に触れることにして、このニュースで私がいちばん共感したことは

未成年者を狙った「連れ去り」が急増している。連れ去り事件は、令和3年が389件、4年が390件と横ばいだったが、昨年は526件と急増。

という記事です。


 私が特殊班に在籍していたころから、未成年者の連れ去り事件が増えていることは感じていました。

 特殊班は、身代金目的誘拐事件に対応することと、人質立てこもり事件に対応することを一番の任務としていますが、その理由は、被害者の解放を引き換えに不当な要求をする犯人に対して、ありとあらゆる捜査手法を駆使して立ち向かい、被害者を救出し犯人を捕まえることを任務としているからなのです。


 でも、身代金目的誘拐事件と未成年連れ去り事件とでは、同じように未成年者を連れ去る事件であっても、その対応や被害者救出の捜査手法が異なってくるのです。

 身代金目的誘拐事件であれば、身代金と引き換えに被害者の命は保証されることを前提として、犯人と家族や警察とのやり取りが存在し、そこに被害者救出の糸口を探します。

 状況によっては、身代金を渡せば被害者が解放される可能性はあります。

 しかし、未成年連れ去り事件は、犯人が未成年者を連れ去って監禁した時点で、その目的は達成されていますから、その後の犯人と家族や警察とのやり取りは、一切存在しません。

 犯人と子供との関係性が無い場合も多く、連れ去った時の現場の証拠が少なければ、監禁場所を探し出すことが、極めて難しい事件なのです。


 それで、長年、特殊班を務めた私が思う、危機感は、

 この、未成年者を狙った連れ去り事件が多いという現状を世の中が正しく認識していないことなのです。

 殺人事件など、他の多くの事件は、発生のたびにその事件の内容がほぼ正しく報道されて世の中に知らされますが、未成年者の連れ去り事件は、性的被害にも関わることがあり、被害者が特定されないように、事件の報道は控えめにならざるを得ないのです。


 だから、いま、未成年者が連れ去られる事件の発生が増加していて、日常生活のいろいろなところに危険が多く存在しているのに、大人が、その危険を正しく認識していないというギャップが、未成年者を無防備にしてしまっていることに、私は危機感を感じるのです。


 未成年者の無防備、それは大人の責任だと思います。

 子供を持つ大人が、連れ去り事件が増加しているという現実を理解し、子供を守らなくてはならないのです。


2 私が経験した未成年連れ去り事件


 今から24年前、新潟で9年間も監禁されていた少女が発見された事件がありました。

 犯人は、ひとりで歩いていた少女を車に押し込めて連れ去り、自宅二階に9年間も監禁していたのです。

 引きこもりの犯人は、母親に暴力をふるい、強制入院に対応した職員が犯人の部屋で監禁されていた少女を発見して保護されたという、私にとって、他県での出来事とは言え衝撃的な事件でした。


 私は、特殊班に在職中、未成年連れ去り事件を数多く対応してきました。

 直ぐに思い浮かぶ事件だけでも

① 軽い知的障害のある少女を言葉巧みに連れ去った男がいました。

 少女のパソコンに残された立ち回り先を捜査し、数日後、少女を探し出し一緒にいた男を逮捕することができました。


② 新潟の事件を真似して、少女を誘拐して監禁しようと思った男がいました。

 朝から車で走り回り、夕方に家のすぐ近くをひとりで歩いていた少女を見つけ、車に押し込んで走り去り自宅に監禁しました。数日後、少女が自力で脱出したことから無事に保護することが出来ましたが、自力で脱出できなかったら、証拠が少なかったので発見することが出来なかったかもしれません。


③ 性犯罪の前科が何件もある男の子が好きな小児性愛の犯罪者がいました。

 刑務所から出所すると直ぐに子供と遊ぶボランティアに入会し、最初の参加で男の子の手を引いて連れ去りました。捜査の結果から張り込んだ場所で、翌朝、男の子の手を引いて歩いていた男を見つけ逮捕しました。見つけることが出来たのは、たった一つの捜査結果と運が良かっただけでした。


④ 子供向けオンラインゲームに入り込んだ小児性愛者の男がいました。

 オンラインゲームに参加する少女に同級生だと嘘を付きゲーム上で仲良しになりました。ある日、親には内緒で会うことを約束させ、待ち合わせの場所に来た少女を強引に車で連れ去りました。捜査から男の家を特定することができ、その日の夜に特殊班が突入して少女を救出することができました。


⑤ 借金の返済に窮した男は子供を誘拐して身代金を要求することを考えました。

 一日中、一人で歩く子供を探し回り、夕方、学校の近くで下校する少女を見つけると車に押し込め、母親に電話して身代金を要求しました。捜査から監禁場所を特定することができ、翌朝、特殊班が突入して縛られていた子供を救出することができました。


 まだまだ他にもありましたが、私は、仲間たちのいろいろな捜査に助けられ、運良く被害者を救出することが出来ました。

 でも、世の中には、行方不明になったままの未成年者が何人もいます。

 事件なのか事故なのか?分からないまま、新潟のように監禁されている子供も、この日本にいると思うのです。


3 未成年連れ去り事件の被害に遭わないためには 


 昨年の連れ去り事件の発生は、526件、その被害の多くが未成年者です。

 子供が好きで自分のものにしたいという異常な考えを持った小児性愛者がいます。

 自分の言うことをきかせるために、自分より弱い子供を狙う卑劣な犯罪者がいるという現実を正しく理解して、大人は子供を守らなくてはならないと思うのです。


① 被害に遭わないためには、第一に、子供をひとりにしないことです。

 「慣れた場所だから」「ちょっとの時間だから」というのは、被害に遭わないという判断にはなりません。

 連れ去りの被害に遭うか遭わないかは、小児性愛の犯罪者に遭遇するかしないかなのです。


 昔、ホームセンターのトイレで、ひとりで入ってきた子供を殺害しリュックサックに入れて運び出した事件がありました。

 慣れたショッピングモールでも、ホームセンターでも、子供をひとりでトイレに行かせてはいけないです。

 小児性愛の犯罪者は、見た目では分かりません。笑顔で子供に近寄ってきます。

 よく、大人は子供に「変な人について行ったらだめだからね」と教えますが、変な人?どんな人でしょう?

 犯罪を起こす小児性愛者は、見た目、他の人と何ら変わりはありません。


 海や山、キャンプ場、他に人がいないから大丈夫だろうと、つい子供をひとりで行動させてしまいたくなりますが、こういうところでも犯罪者は隠れています。

 特に、捜査をする立場から言うと、海や山などの屋外は、防犯カメラも無く、目撃者もいないことから連れ去られたという判断が難しく、事故と事件の両面から対応し、見つけることがより難しくなります。


 家の近くの慣れた公園でも、「行けば友達がいるから」と言われても、ひとりで行かせないことです。

 いつもいる友達がたまたまいなくて一人で遊んでいて、たまたまそこに小児性愛の犯罪者がいたら、間違いなく被害に遭います。

 そういう偶然が重なって犯罪は起きるのです。

 子供の連れ去りを企てている犯罪者は、子供が来ないところでは待っていません。

 子供が来るところで、親がちょっと目を離すチャンスを待っているのです。


② GPSを持たせたら安全か

 GPSを持たせれば、子供の現在地が分かり親は安心のようですが、GPSを待たせることと、連れ去りの被害に遭わないことは別です。

 犯罪者は、今の子供が携帯などのGPS機能があるものを持っていることは想定内ですから、子供を連れ去ったら直ぐに、GPSを切るか、外して捨ててしまいます。

 私が経験した事件でも、犯人は子供を車に押し込めた後、子供の持ち物を確認して持っていた携帯の電源を直ぐに切りました。


③ 子供のオンラインゲームは

 私が経験した連れ去り事件でも、オンラインゲームから小異性愛の犯罪者に誘い出されて連れ去られた事件があったことはお話ししました。

 子供にオンラインで交流できるゲームをやらせないことです。

 幼稚な子供用のゲームだから参加しているのはみんな子供だと思わないことです。

 小児性愛者が必ず紛れ込んで遊んでいますから、「お母さんには内緒で会わない?」と誘い出されてしまいます。


④ 子供の可愛い写真をネットに載せないこと

 自分の子供が可愛いからと、ネット上に写真を載せないほうが良いです。

 特に、大人びた可愛い写真を載せてみたくなる親の気持ちも分かりますが、大人びた可愛い写真は小児性愛者に共有されます。

 ネット上だから自宅が分からないと思ったら大間違いです。

 過去には瞳に映った景色で場所を割り出したストーカーもいますし、ネット上のいろいろな情報を集めたりすれば、自宅を割り出されることもあります。

 小児性愛の犯罪者は、執着心が強いですから、ネット上で目を付けたら、必ず本人を探しだしてみたくなります。

 そして、どこの誰だか分からない犯罪者から被害を防ぐことは、極めて難しいです。



⑤ 子供が携帯を持つようになったら、被害に遭わない使い方を教えてください。

 今は、小学生でも携帯を持つようになりました。

 持たせれば連絡も付きやすく便利です。

 でも、その反面、子供の行動範囲も遠くになり、親が知ることのできない遊び方も増えました。

 子供が携帯を持つようになったら、

   * GPSを親と共有すること(例え被害に遭ってGPSを切られても最後の位置情報が残り、電源を入れたときに位置情報が入ります)

   * ネット上で他人と交流させないこと(子供向けゲームアプリでも)

   * 自分の写真をネット上に載せないこと(特定のグループ内であっても、そこから誰かが他に流出させることを教えること)

   * メールで知るアルバイトはやらないこと(身分証を送信したら、次は脅されて被害に遭います)

他にもいろいろありますが、携帯を与えるときに、親としてしっかりと教えてあげてください。

子供は、経験未熟だから興味本位でネット上の罠に引っ掛かり易いです。


4 まとめ


 昔の日本は、いたるところで子供に目が届いたと思います。

 子供の行動範囲も狭く、やっていることは目で見えました。

 子供がひとりで歩いていたら、心配して声をかけるおばさんやおじさんは、あたりまえのように存在していました。

 今は、そういう大人もだんだん少なくなってきて、小児性愛者を助長する情報も目に付きやすくなり、子供が被害に遭う犯罪が増え、その対策も欧米のようになるしかなくなりました。

 こどもたちを性被害から守る「日本版DBS」のニュースを見ました。

 私は、小児性愛の犯罪者が子供にかかわる仕事やボランティアに従事して起こした連れ去り事件を2件経験しています。だからこの法案は当然だと思います。


 でも、この法案だけでは未成年連れ去り事件は防ぎ切りません。

 小児性愛の犯罪者は、どこに存在しているか分からないからです。

 このような犯罪者から、自分の子供を守るためには、親が危機意識を持ち、子供が被害に遭う機会を無くすしかありません。

 

 どうぞ、このブログが、子供を育てる親御さんに共有され、子供を犯罪に遭わせない意識の醸成に役立っていただければ幸いです。










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